「奥歯が抜けたけど痛くないからそのままでいいかな」
「忙しいから、治療はまた今度でいいか…」
こんなふうに思ったことはありませんか?
歯を失っても、すぐに生活に大きな支障が出るとは限りません。特に奥歯は見た目にも目立ちにくいため、放置されがちです。
しかし、歯を1本失った影響は、想像以上に大きいのです。噛み合わせのバランスが崩れ、口の中だけでなく全身の健康にも少しずつ変化が起こっていきます。
1本抜けただけでもバランスが崩れる理由
私たちの歯は、上の歯と下の歯がきれいにかみ合い、全体で均等に力を支え合うようにできています。
そのため、たとえ1本でも歯を失うと、以下のような連鎖反応が起こります。
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抜けた部分の両隣の歯が、空いたスペースに向かって少しずつ傾いてくる
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かみ合っていた反対側の歯が、行き場を失って伸びてくる(挺出)
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噛む力のバランスが崩れ、特定の歯や顎に負担が集中する
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歯並び全体の位置がずれ、噛み合わせが狂い始める
これらの変化は急に起こるわけではなく、数か月〜数年単位でゆっくり進行していくため、患者さん自身が気づかないことが多いのが厄介な点です。
気づいたときには歯並びが大きく変わってしまい、治療が複雑・高額になることも少なくありません。
噛み合わせのズレが引き起こすトラブル
噛み合わせがずれてくると、単に「食べにくい」だけでは済まないことがあります。以下のような口腔内・顎・全身への影響が現れてくるのです。
① 歯や歯ぐきへのダメージ
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一部の歯に強い力が集中し、歯の欠けやヒビが起こりやすくなる
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歯周組織に過剰な負担がかかり、歯周病が進行しやすくなる
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詰め物・被せ物が外れやすくなったり、繰り返し壊れるようになる
② 顎関節や筋肉への負担
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片側ばかりで噛む「片噛み」が癖になり、筋肉のバランスが崩れる
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顎関節症(顎が痛い・カクカク音がする・口が開けにくい)が起きる
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食いしばり・歯ぎしりが強くなり、頭痛・肩こり・首のコリの原因になる
③ 姿勢や全身への影響
噛み合わせと姿勢は密接に関連しています。例えば、奥歯がなくなると下顎の位置がズレ、頭部が前方に移動しやすくなります。すると、首や肩の筋肉に負担がかかり、
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慢性的な肩こり・首こり
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猫背や体の左右の傾き
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バランス感覚の低下
といった症状が現れることもあります。
歯の問題が、実は体のゆがみや痛みの原因だった…というケースも少なくないのです。
「よく噛む」ことは、全身の健康につながっている
噛むという行為には、ただ食べ物をすりつぶす以上の大切な役割があります。
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唾液をたくさん出すことで虫歯や歯周病、口臭を防ぐ
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顎の筋肉や骨をしっかり刺激し、顔の形や発音を保つ
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脳への血流を促し、記憶力や集中力を高める
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消化を助け、胃腸への負担を減らす
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自律神経を整え、ストレスを軽減する
つまり「よく噛むこと」は、歯の健康だけでなく全身の健康維持・老化予防・脳の活性化にもつながる重要な行為なのです。
しかし、歯が抜けたままだと噛む回数が減り、柔らかいものばかり食べるようになって、こうしたメリットが失われてしまいます。
放置すると、治療はどんどん複雑になる
「そのうち治そう」と思っていても、時間が経つほど治療は複雑になります。
例えば、歯が抜けた直後ならブリッジやインプラントで比較的スムーズに補うことができますが、長期間放置すると──
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両隣の歯が倒れてしまい、ブリッジが適応できなくなる
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反対側の歯が伸びてしまい、インプラントを入れるスペースがなくなる
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噛み合わせ全体を治さないといけないケースも出てくる
つまり、「放置=時間と費用が余計にかかる」ということです。
失った歯を補う3つの方法
歯を失ったときの主な治療法は以下の3つです。それぞれ特徴があるため、口腔内の状態や生活習慣に合わせて選択します。
① ブリッジ
両隣の歯を削って、橋渡しのように人工の歯をかぶせる方法。
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✅ 固定式で違和感が少ない
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✅ 比較的短期間で治療が終わる
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❌ 健康な歯を削る必要がある
② 入れ歯(部分義歯)
取り外し式で、保険診療が可能。
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✅ 費用を抑えやすい
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❌ 違和感が出やすい、金属のバネが見える場合がある
③ インプラント
人工の歯根を埋め込み、上に人工歯を固定する方法。
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✅ 周囲の歯を削らない
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✅ 見た目も機能も天然歯に近い
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❌ 外科手術が必要で、費用が高め
いずれも一長一短があるため、歯科医とよく相談し、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
1本だからこそ、早めの対応を!
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歯は1本抜けても「機能的な穴」が生じ、連鎖的に噛み合わせが崩れる
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その影響は口の中にとどまらず、顎関節・姿勢・全身にも波及する
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よく噛むことは全身の健康維持の基本であり、失うと生活の質が下がる
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放置すると治療が複雑・高額になりやすい
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早期に対応することで、将来の健康と費用負担を抑えられる
「1本くらい」と軽く考えず、歯を失ったときはできるだけ早めに歯科医院へ相談しましょう。あなたの健康を守る第一歩になります。
この記事を書いた人は中村区にある歯医者
かすもりおしむら歯科・矯正歯科・口腔機能クリニック 院長 押村憲昭