「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」という病気をご存じでしょうか?
加齢や生活習慣などの影響で骨がもろくなり、ちょっとした転倒でも骨折してしまう病気です。日本には約1,300万人の患者さんがいるといわれ、特に閉経後の女性や高齢者に多く見られます。
一見「整形外科や内科の病気」というイメージがある骨粗鬆症ですが、実は歯科治療とも深い関わりがあります。今日は、そのつながりについて分かりやすくご紹介します。
骨粗鬆症が歯や歯ぐきに与える影響
骨粗鬆症は全身の骨に起こる病気ですが、「あごの骨」も例外ではありません。あごの骨は歯を支える大切な土台。骨がスカスカになれば、当然ながらお口の健康にも影響してきます。
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歯周病が進みやすくなる
あごの骨が弱ると歯を支える力が落ち、歯周病による歯のぐらつきが進行しやすくなります。骨粗鬆症の方は歯を失うリスクが高いともいわれています。
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入れ歯が合いにくくなる
骨が痩せることで入れ歯が安定しにくくなり、「すぐ外れる」「痛い」といったトラブルにつながります。
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インプラント治療への影響
インプラントはあごの骨に人工の歯根を埋め込む治療法ですが、骨がしっかりしていないと安定が難しく、事前に骨の状態をよく確認する必要があります。
骨粗鬆症のお薬と歯科治療の関係
骨粗鬆症の治療では、「ビスホスホネート製剤」や「デノスマブ」といった骨を強くする薬が使われます。これらの薬は骨折予防に非常に効果的ですが、歯科治療と関連して注意が必要です。
特に抜歯やインプラントなど外科処置を行う際、まれに「顎骨壊死(がっこつえし)」という合併症が起こるリスクがあるのです。顎骨壊死とは、あごの骨の一部が壊れて治りにくくなる状態。確率は高くありませんが、一度起こると治療に長い時間を要します。
そのため歯科では、
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お薬を飲んでいるかどうかを必ず確認
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主治医(整形外科や内科)と連携して治療方針を決定
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抜歯が必要な場合はリスクを最小限にするために工夫
など、慎重に対応しています。
骨粗鬆症予防が「歯を守ること」にもつながる
逆に言えば、骨粗鬆症の予防はお口の健康を守ることにも直結します。
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カルシウム・ビタミンDの摂取
牛乳、小魚、きのこ類などをバランスよく。
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適度な運動
骨に刺激を与えるウォーキングや筋トレは、骨を強くするだけでなく全身の血流も良くし、歯周病予防にもつながります。
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禁煙
喫煙は骨密度を下げるだけでなく、歯周病のリスクも高めます。
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定期的な検診
歯科では歯や歯ぐきの状態をチェックし、必要に応じて骨粗鬆症リスクについて医科受診をおすすめすることもあります。
歯科医院でできる骨粗鬆症との連携
最近では「医科歯科連携」が進み、歯科で骨粗鬆症のスクリーニングを行う取り組みも始まっています。レントゲンや口腔内の状態から、骨の健康に疑いがある方を整形外科へ紹介することで、早期発見・早期治療につなげられるのです。
当院でも「噛む力が弱い」「歯が揺れてきた」といったお口のサインを見逃さず、必要に応じて骨の検査をおすすめしています。
骨粗鬆症と歯科治療は、一見関係がなさそうでいて、実はとても密接に関わっています。
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骨粗鬆症はあごの骨を弱らせ、歯の喪失や入れ歯・インプラント治療に影響する
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治療薬と歯科処置の組み合わせで注意が必要な場合がある
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予防や生活習慣の改善は、全身とお口の両方を健康にする
もし骨粗鬆症の診断を受けている方や、お薬を服用している方は、ぜひ歯科受診の際にお知らせください。医科と歯科が協力しながら、全身とお口の健康を守っていきましょう。
この記事を書いた人は中村区にある歯医者
かすもりおしむら歯科・矯正歯科・口腔機能クリニック 院長 押村憲昭